東京高等裁判所 昭和39年(行ケ)72号 判決
一 特許庁における本件審査、抗告審判手続の経緯および本件審決の理由の要旨についての請求原因第一項および第三項の事実ならびに本願実用新案の登録請求の範囲の項の記載が別紙第一の「図面に示すように、ばね(ST)にて上昇する芯杆(23)の下部に可動接触子(D)を設け、その下方にこれに接触する接触子(C)を設け、これを外部より観視できるパイロツトランプ(P)の電路に接続して成る電動鉛筆削りの構造」であることについては、当事者間に争いがない。
二 原告は、本願実用新案の要旨について、これを、右登録請求の範囲の項の記載に、(1)接触子(C)が「固定され」、(2)可動接触子(D)を固定接触子(C)に「押しつけて」接触させ、「鉛筆の下降を阻止させるとともに」、(3)「パイロツトランプ(P)の回路を閉成するようにし」、(4)該パイロツトランプ(P)は、鉛筆の削り動作を行う「電動機の回路に直接関係のない回路に設けられた」ものとの点を含めて解すべき旨主張し、被告は、これを争つている。成立に争いのない甲第二号証(本願実用新案の実用新案公報)によれば、その「実用新案の説明」の項において、本願実用新案の構成について、「芯杆(23)の下端に電動機(2)の二次捲線(L2)に接続した接触子(C)に接触して、パイロツトランプ(P)の回路を閉成する可動接触部(D)を設け、芯杆(23)にこれを上昇させて可動接触部(D)を接触子(C)より離すばね(ST)を設け、その上端を芯杆(23)の下部に設けた止片(T)に接触させる。前記二次捲線(L2)の一極を支杆(3)に接続する。」「(B)は接触子(C)の絶縁覆函で、(L)は電動機(2)の一次捲線である。芯杆(23)の下端部は、絶縁覆函(B)の孔(H)に挿入して昇降する。」と説明し、さらに、その作用効果に及び、「削成せられる鉛筆は、順次下降して行き、その芯が芯杆(23)の凹部(24)を介して、芯杆(23)を下圧して削成を終ると、芯杆(23)の下端なる可動接触部(D)は、接触子(C)に接触し、パイロツトランプ(P)の点灯回路を閉成して点灯するので、パイロツトランプ(P)の点灯によつて、鉛筆が削られ終つたことを明確に知ることができる効果がある。削成ずみの鉛筆をさらに無駄に削る欠点がない。削成ずみの鉛筆を引き抜けば、芯杆(23)は、ばね(ST)によつて上昇し、可動接触部(D)は、接触子(C)より離れ、パイロツトランプは消灯する。」と記載し、本願実用新案は、そのようなものであることが認められる。前示本願実用新案の登録請求の範囲の項の記載に基づいて、右説明書の記載事項を合わせ考えると、本願実用新案の要旨は、右登録請求の範囲の項の記載のとおりであつて、この要旨には、自明の事項として、原告主張のとおりの(1)ないし(4)の各点を含んでいるものと解するのが相当である。
三 成立に争いのない甲第三号証(米国特許第二、五六一、四三八号明細書)によれば、同明細書は、本願実用新案の登録出願日(昭和三四年三月三〇日)の以前の日である昭和二六年一二月一〇日、特許庁陳列館に受け入れられたものであるところ、これには引用例(一)が記載され、引用例(一)は、ばね箔片(78)で上昇する作動子(100)の下部にプランジヤ(94)を介してばね箔片(78)の先端に接点(82)を設け、その上方にこれに接触するプランジヤ(92)の接点(82)を設け、これらを、駆動モーターの回路に接続した電動鉛筆削りであること(引用例(一)の構造が右のとおりであることについては、当事者間に争いがない。)、鉛筆が予定量だけ削られ、鉛筆の尖つた芯先(104)が予定量だけスリーブ(44)から内方に突出すると、その芯先は、作動子(100)の端部に衝合し、これをごくわずかの距離だけ図上軸方向左側に押し、その結果プランジヤ(94)およびばね箔片(78)は、左側に動かされて、開閉器接点(82)は分離されて、モーターを停止させ、鉛筆を無駄に削つたり、余分な電力を消費することがないことが認められ、また、成立に争いのない甲第四号証(登録実用新案第三六七六三四号公報)によれば、引用例(二)は、昭和二四年七月一九日出願公告、同年一一月一四日設定登録にかかる、ダイス基台(2)の下面とその受台(3)の間に、電気絶縁物質の薄層(4)を介在させるとともに、穿孔針(1)と受台(3)とを電源の両極にそれぞれ接続し、さらに、この回路に閉路状態を表示する表示装置、たとえば表示灯(6)を直列に接続し、基台(2)に孔が貫通し、穿孔針(1)が電気絶縁物質の薄層(4)を突破し、受台(3)と接触したときに回路を閉成し、表示装置を作動させるようにしたダイス穿孔機における穿孔針貫通時期表示装置に関するものであることが認められる。
四 前掲甲第二号証によれば、本願実用新案の説明書に示されている本願実用新案の唯一の効果は、パイロツトランプの点灯によつて、鉛筆が削られ終つたことを知らせ、削成ずみの鉛筆をさらに無駄に削ることがない点にあるとされていることが明らかであるが、この無駄削りがないという点は、鉛筆を電動鉛筆削り機から引き抜くことによつて達成されるものであるから、パイロツトランプの点灯は、単に、鉛筆を削り終つたことを表示するものに過ぎない。すなわち、無駄削りをなくするという効果は、パイロツトランプの点灯とは別の、鉛筆をその削り機から引き抜くという動作をまつて収められる。したがつて、本願実用新案は、電動鉛筆削りに、鉛筆が削られ終つたことを表示するパイロツトランプを設けるという技術思想に基づくものということができる(前掲甲第二号証の冒頭部分参照)ところ、一般に、電気器具において、その作動状態を表示するために、パイロツトランプを設けることが広く行われていることは、引用例(二)を例示するまでもなく、本願実用新案出願前すでに、顕著な事実であるから、電動鉛筆削りに、その作動状態、たとえば鉛筆が削られ終つたことを表示するためにパイロツトランプを設けるという技術思想そのものは、当業者の容易に想到しうる程度のことといわざるをえない。なお、引用例(一)においては、鉛筆が削られ終るとモーターは停止されるから、モーター音の変更が鉛筆の削成完了を表示することになるであろうし、当然に、本願実用新案におけるパイロツトランプのような表示手段を必要としていない。
ところで、本願実用新案は、右技術思想を、切削とともに下降する鉛筆の芯先により、ばね(ST)で上昇する芯杆(23)を押しつけて、その下端部に設けられた可動接触子(D)を、固定接触子(C)に押しつけ接触させ、鉛筆の下降を阻止させるとともに、電動機の回路に直接関係のないパイロツトランプ(P)の回路を閉成させる構造によつて、具現したものであるが、本願実用新案は、いわば、鉛筆の芯先で押しボタン式スイツチ(開閉器)の押しボタンを押すと同じ構造であり、鉛筆の芯先で可動接触子(D)を固定接触子(C)に押しつけて接触させれば、鉛筆の下降が阻止されることも当然である。一方、引用例(一)は、鉛筆の芯先で作動子(100)を押すと、ばね箔片(78)が彎曲して接点(82)が開き、モーターの回路が開かれ、モーターの回転が停止される構造になつているが、これも、鉛筆の芯先で押しボタン式スイツチ(開閉器)の押しボタンを押すと同じ構造のものである。
本願実用新案は、このように、引用例(一)と押しボタンスイツチ方式として顕著な基本的型式において一致しており、ただ、両者は、使用されるばねが、本願実用新案においては、コイルばねを常時接点を開くようにセツトしたものであるのに対し、引用例においては、板ばねを接点が常時閉じるようにセツトしたものであるとの点で相違しているに過ぎない。両者は、開閉器の構造においてかかる相違があるとしても、いずれの開閉器の構造自体も、ありふれた型式のものであり、他方、本願実用新案のコイルばねが引用例(一)の板ばねに比し、ないしは、本願実用新案の開閉器の構造が引用例(一)の開閉器の構造に比し、格別にすぐれた作用効果を有するものと認めるに足りる資料がなく(原告は、ばねの劣化の場合等について主張するところがあるが、本願実用新案がその技術的課題を解決しようとして取り上げた前記技術思想を離れるものであり、論外である。)、せいぜい、電路を閉じるか開くかだけの作用効果上の差異があるにとどまり、しかも、これも結局前記技術思想としてのパイロツトランプの点灯と表裏をなすものであり、そこに特段の考案力の存在を認めえないこと前述のとおりである以上、右差異も、本願実用新案をもつて引用例(一)から当業者の容易に推考しえない程度のものとなすに足りないというべきである。
五 右のとおりであつて、本件審決をもつてその主張のような違法があることを理由にその取消を求める原告の本訴請求は、理由がないことが明らかである。
〔編註〕 本件に関する別紙は左のとおりである。
別紙第一
本願実用新案「電動鉛筆削」の一部切欠正面図および縦断正面図
<省略>
別紙第二
米国特許第二、五六一、四三八号明細書記載の電動鉛筆削りの縦断面図および平面図(引用例(一))
<省略>
別紙第三
登録実用新案第三六七六三四号公報記載のダイス穿孔装置の側面図および要部拡大断面図(引用例(二))
<省略>